高松高等裁判所 昭和23年(ナ)1号 判決 1948年7月17日
原告
大倉秀吉
被告
高知縣選挙管理委員会
主文
昭和二十二年四月五日施行の高知縣吾川郡名野川村長選挙の効力に関する岡正己の訴願について被告がした同年十二月四日附裁決を次の通り変更する。
前項の村長選挙の効力に関して岡正己から申立てた異議について昭和二十二年四月二十三日同村会議員選挙管理委員会のした決定はこれを取消す。
右村長選挙は無効とする。
訴訟費用は原告の負担とする。
請求の趣旨
原告訴訟代理人は主文第一項掲記の裁決はこれを取消す、主文掲記の選挙の効力に関して岡正己の申立てた異議は理由なく、右選挙における原告の当選は有効とするとの判決を求めた。
事実
原告は昭和二十二年四月五日施行された高知縣吾川郡名野川村長選挙における選挙人であつて立候補した者であるが同選挙における原告の得票は九四五票、岡正己(補助參加人)のそれは五六〇票で原告が当選人と決定された、ところが右選挙の効力に関して岡正己から異議を申立てたが同村会議員選挙管理委員会はこれを理由なしとし選挙を有効とする旨決定したので岡正己から更に被告に訴願したところ被告は昭和二十二年十二月四日附を以て同村選挙管理委員会の右決定を取消し原告の当選を無効とすると裁決しその旨昭和二十二年十二月十九日告示した。しかしながら右被告の裁決は左の理由により違法である。
第一 右訴願は期間経過後の申立であるから被告においては当然これを却下すべきであつたのにそのことなく審理裁決したのは違法である。
即ち岡正己の申立てた異議に対し名野川村会議員選挙管理委員会が決定したのは昭和二十二年四月二十三日であつて該決定は遅くとも同月二十五日には異議申立人たる岡正己に送達されて居る筈だのに訴願書を原決定廳たる名野川村選挙管理委員会を経由して提出したのは五ケ月餘を経過した昭和二十二年十月二十二日であるから法定の訴願期間を経過して居ること明かである。また若し訴願廳たる被告において宥恕すべき事由ありと認めて受理したので適法だとしてもなお左の如き違法の点がある。
第二 訴願廳である被告においては訴願人が不服の申立をして居ない事項に立入つて審理裁決して居るがこれは権限を超えた違法の裁決である。
即ち訴願人の申立てて居る不服の点は原告の候補者屆出書に添付した連署表には法定数三十人以上の氏名の記載はされて居たが捺印して居た者は三十人に足らず法定屆出期日後に整備された事実があり、かような不備な書類を選挙長が受付けて告示したものであるから違法であると云うのであつて連署表に記載された氏名は自署したものでないから無効であると主張して居るのではない、ところが被告においてはこの不服の点については何等審理判断しないで訴願人の主張していない連署表記載の氏名が自署なりや否やの点に立入り自署でないと認定してこれを無効としたのである。若し訴願人において主張していない点をも訴願廳独自の権限によつて判断すべきものとするならば原告の連署表のみならず岡正己の連署表をも調査しなければならない筈であるにも拘らずこれをしないで岡正己の連署表はこれを有効と認定して原裁決書に「大倉秀吉の立候補屆出書に添附してある連署表は(中略)自署捺印したものでないから正規の連署表と認めることが出來ない。從つて大倉秀吉の当選は無効であるが次点者岡正己はその得票数は五六〇票であつて法定得票数五六四票に達しないから当選者となることが出來ない故に再選挙を執行すべきである」と記載されてあることによつて明かである。
斯くの如く被告のした裁決は訴願人の申立ててない事項にまで立入つて審理判断したこと明かであるから違法である。
第三 村長選挙の候補者屆出書添附の連署表は記名捺印を連ねるを以て足り自署捺印を要しないのに原裁決が自署捺印を要するとしたのは違法である。
即ち旧町村制第六十一條ノ四第一項には「町村長候補者タラントスル者ハ選挙ノ期日ノ告示アリタル日ヨリ選挙ノ期日前三日目迄ニ其ノ旨ヲ選挙長ニ屆出ヅベシ」とあつて同條第三項には「前二項ノ規定ニ依ル屆出ハ選挙人三十人以上ノ連署ヲ以テ之ヲ爲スベシ」とあり、また市制町村制施行規則第二十二條ノ三第一項には「町村長選挙ニ於ケル町村長候補者ノ屆出又ハ推薦屆出ニハ町村制第六十一條ノ四第三項ノ規定ニ依ル選挙人連署表ヲ添附スベシ」とあつて町村制には連署の如何なるものなるかの説明はしてないけれども字義解釈上連署は署名を連ねることであつて署名とは本人が自己の氏名を自署するを以て足り捺印の要はない筈である。それだのに市制町村制施行規則第二十二條ノ三第二項には「之ニ署名捺印シタル者が云々」とあるのを以て見れば連署表は署名のみではなく記名捺印を以て足ると認めて制定された規定と解するより外ないのである。なお規定の解釈は別としても記名者が各目的に副うて自己を表示したものであることを認めてこれを爭わない時には第三者から本人の自署でないからと筆跡鑑定迄してこれを問議する何等の必要はない筈で殊に記名捺印した場合には署名として通用することは社会一般の慣習である。町村制に定めた連署の場合の署名も此の社会一般の通念に反して特殊の意義を持たせる必要はない筈である。
次に市制町村制施行規則第二十二條ノ三第二項には「選挙人連署表ハ選挙長ニ於テ之ヲ町村会議員選挙管理委員会ニ提出シテ之ニ署名捺印シタル者が選挙人ナリヤ否ヤノ確認ヲ求ムベシ、此ノ場合ニ於テ其ノ確認アリタル者ノ數ガ三十人ニ達セザルトキハ其ノ届出又ハ推薦届出ハ却下スベシ」とあつて届出た連署表の調査の責任は一にかかつて町村会議員選挙管理委員会にある。同委員会では選挙人三十人以上の自署又は記名捺印の存するや否やを調査しなければならないのであるが同委員会で不備の点なしと見て却下せずに受理した以上一應届出者の手続は終つた訳であつて其の後の責任は受理者側にある。原告の本件候補者届出書に添附された連署表記載の氏名中自署は岸木淸治一名のみであつて他はいずれも同人において記載したものであるがこれは予め各名義人本人の承諾を得その意思に基いて記載されたものである。そして昭和二十二年三月三十日右連署表を原告の候補者届出書に添附して名野川村役場へ提出したところ同役場吏員から捺印がなくてはいけないと注意を受けたので直ちに大野茂厚外九名の捺印を得て翌三十一日これを選挙長宛て提出したところ一應受理せられその後において捺印の欠缺を補充追完した次第であるがかくの如く届出当時正当な連署表と認めて受理したが自署でなく記名であり捺印洩れのものがあつたとしても各名義人本人において原告を村長候補者として推薦する意思の下に爲されたことが判然として居るときには受理後捺印の形式を補充して有効とし何等の不都合を生じない訳であつて実質的弊害の伴わない單なる形式を以て選挙の効力を左右することは立法の主旨でないことを信じて疑わない。
第四 若し被告主張の如く候補者届出書に添附すべき連署表は自署捺印を要し本件原告の候補者届出書に添附された連署表は無効であるとするならば岡正己の候補者届出書に添附された連署表も自署でなく記名捺印であるからこれ亦無効であり、從つて本件選挙は候補者なくして施行されたことになり選挙そのものが無効となるべきであるのに選挙は有効とし原告の当選を無効とした被告の裁決は到底許さるべきではない。
と陣述し訴願受理の経緯に関する被告主張事実は爭うと述べ。
立証として甲第一号証の一、二、三、同第二号証の一乃至四十三同第三号証を提出し、証人藤原貞雄の証言を援用し、甲第一号証の三は前記の如く原告の候補者届出書に添附されて昭和二十二年三月三十一日選挙長に提出されたもので候補者届出期日たる同年四月二日迄に捺印した者は唯一の自署者である岸本淸治のほか、大野茂厚、西田將美、谷脇高志、西森德馬、日浦折馬、大倉房、下久保德繁、山下良房、中西正義、中西とし子の十名であつて他の者はいずれも届出期日後捺印したものである。また甲第三号証は右甲第一号証の三の連署表を提出後別途に原告推薦の意思ありと認められる者三十名の氏名を列記し、各名義人本人の捺印を得て昭和二十二年四月一日村会議員選挙管理委員会に提出された次第でその爲め原告から提出された連署表は右甲第一号証の三及同第三号証の二通となつたのであるなお乙第五、六号証の各一、二は各選挙管理委員会の印の成立は認めるが、其の余は不知、爾余の乙号各証並に丙第一号証はいずれも成立を認めると述べた。
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、
その答弁として原告が昭和二十二年四月五日施行された高知縣吾川郡名野川村長選挙における選挙人であつて立候補したこと、原告の得票が九四五票、岡正己のそれが五六〇票で選挙長が原告を当選人と決定したこと、これに対し岡正己が原告主張の如く異議を申立てたところ同村会議員選挙管理委員会はこれを理由なしとし選挙を有効とする決定したので、同人から更に訴願した結果被告が原告主張の如き裁決並に告示をしたこと、右訴願が法定期間経過後に提起されたこと及び原告の候補者届出書に添附された連署提出の経緯が原告主張の如くであることは認めるが其の余の事実は爭う。
第一 被告が本件訴願書を受理したのは昭和二十二年十月二十五日であつて岡正己が異議申立に対する名野川村会議員選挙管理委員会の決定の送達を受けたのは同年四月二十三日であつたから、右訴願は原告主張の如く訴願期間経過後の申立ではあるが被告において訴願法第八條第三項に基き「宥恕すべき事由あり」と認めてこれを受理したのであるから違法ではない。その経緯は次の通りである。即ち昭和二十二年五月三日から町村制に代つて地方自治法が施行されたのであるが町村制によると村会議員選挙管理委員会の決定に対する訴願は府縣知事に提起すべき規定になつて居たが地方自治法では府縣選挙管理委員会に提起すべき旨規定が改められた、ところが官報の到達遅延の爲め訴願人は右手続の改正されたことを知らず旧町村制に從つて法定期間内である昭和二十二年五月十日高知縣知事宛て訴願書を同縣地方課に提出し同課係官も亦右手続が改正されたことを看過してこれを受理したのであつた、その後日時が経過して高知縣地方課は右訴願書の受理か違法であることに氣付いたが地元有志の斡旋による圓満解決策が講ぜられつつあつた爲め右訴願書に対する措置を留保して居たが同年十月遂に右斡旋が不成功に終つたので高知縣知事は右訴願書を一應訴願人に差戻した、よつて訴願人は同月二十二日名野川村選挙管理委員会を経由し同月二十五日被告に右訴願書を提出したのであつたが被告は敍上事情を考慮し訴願法第八條第三項に所謂「宥恕すべき事由あり」と認めこれを受理した次第であるしかのみならず宥恕すべき事由ありと認めて受理するや否やは当該行政廰の自由裁量に属し從て行政裁判を以て審理すべき事項に属しない。
第二 本件訴願書は措辞明確を欠く憾はあるが訴願人の眞意は要するに原告の候補者届出書添附の連署表の効力を全面的に爭う点にあるのであるから被告が右連署表に名を連ねた者の氏名が自署でなく記名であるとの理由を以て原告の当選無効を裁決しても申立外の事項に立入つて審理裁決したとの非難は当らない。仮に申立外の事項に渉つて審理裁決したとしても選挙又は当選の効力に関する訴訟にあつては裁決廰は訴願人の主張しない事項でも選挙又は当選の効力に関係ある以上これを審査しその結果に基いて裁決することが出來るのであつて何等違法ではない。
第三 連署については自署を連ねる意味であり且つ自署の上捺印すべきであることは法の明示するところであつて唯その提出時に偶々連署者中一部の者の捺印洩れがあつたとしてもその後において遅滯なく補充追完することは許されてよいが記名で足ると解すべき余地はない。
その他原告の主張はいずれも失当であると述べ、
立証として乙第一号証、同第二号証の一、二、三、同第三、第四、第五、第六各号証の各一、二を提出し、証人野村泰助、片岡駒義、林卯市の各証言を援用し、甲号各証の成立を認むと述べた。
補助參加代理人は補助參加人の候補者届出書に添附された連署表記載の氏名が記名であることは認めると述べ、立証として丙第一号証を提出し証人片岡駒義、林卯市の各証言を援用し甲号各証の成立を認めると述べた。
なお被告並に補助參加人各代理人は甲第一号の三、同第三号証に関する原告主張事実については各捺印の補充追完の時期を除きこれを認める。
捺印の欠缺を追完した時期は甲第一号証の三は選挙終了後たる昭和二十三年四月中旬頃、甲第三号証は候補者届出期間経過後たる同月四日であると各陳述した。
理由
原告がその主張の選挙における選挙人であつて立候補したこと、原告の得票が九四五票、岡正己(補助參加人)のそれが五六〇票で原告が当選人と決定されたこと、これに対し岡正己から右選挙は選挙法規に違反し無効であると主張して異議を申立てたところ名野川村会議員選挙管理委員会はこれを理由なしとし右選挙を有効とする旨の決定をしたので、岡正己は更に被告に訴願した結果被告は昭和二十二年十二月四日附を以て右決定を取消し原告の当選を無効とすると裁決しその旨同月十九日告示されたことはいづれも当事者間に爭がない。よつて按ずるに
第一 原告は右訴願は期間経過後の申立であるから却下さるべきであつたと主張し右訴願が法定期間経過後に爲されたものであることは被告の爭わないところであるけれども成立に爭のない乙第二号証の一、二、三、に証人野村泰助の証言を綜合するときは前記異議申立に対する名野川村会議員選挙管理委員会の決定が異議申立人たる岡正己に送達されたのは昭和二十二年四月二十三日であるが、同人は同年五月三日から町村制に代つて地方自治法が施行され、訴願の手続に関する規定が改正されたことを知らず依然町村制の規定に則り法定期間内である同年五月十日高知縣知事宛て訴願書を同縣地方課に提出し同課係官も亦右手続が改正されたことを看過してこれを受理したがその後日時が経過して同縣地方課は右訴願書の受理が違法であることに氣付いたけれども当時地元有志の斡旋により圓満解決策が講じられつつあつた爲め右訴願書に対する措置を留保して居たが同年十月遂に右斡旋が不成功に終つたので高知縣知事は右訴願書を一應訴願人に差戻した、よつて訴願人は同月二十二日名野川村選挙管理委員会を経由し同月二十五日被告に右訴願書を提出したので被告は敍上の事情を考慮し右訴願は期間経過後に申立てられたものではあるが宥恕すべき事由ありと認めて受理したものであることを認められる。そしてかかる事情の存する場合は訴願法第八條第三項に所謂「宥恕すべき事由」ある場合に該当するものというを相当とするから被告が右訴願を不適法として却下することなく受理したのは違法ではない。
第二 原告は被告のした裁決は訴願人の申立てない事項に立入つて審理裁決したので違法であると主張するけれども前掲乙第二号証の一、二、に徴するときは訴願人たる岡正己の主張するところは畢竟原告の候補者届出書に添附された連署表の効力を爭い不適法な候補者届出を却下せずして選挙を施行したのは違法であるというに帰するから、被告において右連署表記載の氏名が自署なりや否やの点につき審理し自署捺印したものでないから正規の連署表と認めることが出來ないと判断ししたのは(この点記録添綴の裁決書謄本によつて明かである)申立てない事項に立入つて審理裁決したものとは云えない。
第三 村長選挙において候補者たらんとする者は候補者届出書に選挙人三十人以上の署名捺印した連署表を添附しなければならないことは町村制(本件選挙当時にあつては町村制が施行されて居た)第六十一條ノ四第三項、市制町村制規則第二十二條ノ三によつて明かである。そして署名とは自己の氏名を自署する行爲を云い、法令に別段の定めのない以上記名捺印を以て署名に代えることが出來ないものと解すべきであるが、右連署表の署名は記名捺印を以て代え得ると云うような規定はどこにも存じないのみならず地方自治法第五十四條第四項及び同法施行規則第九條第二、第三項には前記町村制第六十一條ノ四第三項及び市制町村制施行規則第二十二條ノ三と全く同趣旨の規定があり且つ右地方自治法施行規則第九條第四項には右選挙人連署表の様式を定めその連署表には各署名者の氏名、印等の外に署名年月日の記載をも要求して居る点等に徴するときは右町村制並に市制町村制施行規則所定の連署表の氏名も亦必ず自署捺印するを要し記名捺印を以てこれに代え得ざるものと云わなければならない。原告は市制町村制施行規則第二十二條ノ三第二項に「之ニ署名捺印シタ者が云々」とあるを以て連署表は署名のみではなく署名の代わりに記名捺印を以ても足る趣旨であると解すべきだと主張するけれども同條項には「選挙人連署表ハ選挙長ニ於テ之ヲ町村会議員選挙管理委員会ニ提出シテ之ニ署名捺印シタル者ガ選挙人ナリヤ否ヤノ確認ヲ求ムベシ云々」とあつて原告主張の如く記名捺印を以て署名に代え得る趣旨であるとは解し得ないのみならず、むしろ署名と捺印とを併せ要求し居るものと云わなければならない。また原告は我國において記名捺印の存する場合には一般に署名として通用する慣習があると主張するけれどもこれを認めるに足る証拠はない。尤も從來我國においては自署よりも印影に重きを置く風習の存することは顕著な事実だと云い得るかも知れないが斯様な風習があるとしてもこれあるの故を以て法令の規定に署名又は署名捺印を要求して居る場合でも常に記名捺印を以てこれに代え得るものと断定することはできない。故に右原告の主張はいずれも採用しない。
そして本件原告の候補者届出書添附の連署表中自署捺印した者は僅かに一名のみで他は全部記名(しかも候補者届出期日たる昭和二十二年四月二日迄に捺印を了した者は僅々十名に過ぎず其の他はいずれもその後において捺印の欠缺を追完したものである)であることは原告の自認するところであるから右連署表は法律上その効なきものと云うべく、從つて選挙長は有効な連署表の添附なきことを事由として原告の本件候補者届出を却下しなければならなかつた筈である。然るにそのことなくしてこれを受理した上その旨告示し、原告と岡正己との二名を適法な候補者として投票を行わせ原告を有効投票の最多數得票者として当選人と決定したのは選挙執行手続に関する規定に違反し、しかも選挙の結果に異動を及ぼす虞かあるというべきであるから本件選挙は無効と宣告されなければならない。
第四 さらに原告は候補者届出書に添附すべき連署表は自署捺印を要するものとするならば岡正己の候補者届出書に添附された連署表の氏名も記名捺印であつて自署ではないから同人の候補者届出書も無効であり、從つて本件選挙は結局候補者皆無に帰し選挙は全部無効であると主張するけれども、岡正己の候補者届出が有効であると否とを問わず(同人の連署表が記名捺印であることは同人の認めるところである)本件選挙の無効たることはさきに説明した通りであるから右原告の主張に対しては特に判断を下す必要もなく、その他の原告主張は結局連署表の氏名は記名捺印を以て足るということを前提とするものであるからこれに対し一々判断をするまでもなく失当である。
以上の次第であるから岡正己の異議申立に対し名野川村会議員選挙管理委員会が本件選挙を有効とする旨決定したのは違法であるから被告のした裁決中右決定を取消した部分は正当であるけれども原告の当選を無効とした部分は失当であるからこの部分を変更し本件選挙は全部無効とすべきである。(原裁決書にはその理由中にあいて「再選挙を執行すべきものである」というて居るけれども主文に「当選を無効とする」との辞句があるからこの部分を右の如く変更することにした)
仍て訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十二條但書を適用し主文の通り判決する。